トピックス
医療構想・千葉

「第六回どこでもMYカルテ研究会」開催速報

■第六回どこでもMYカルテ研究会
~医療・介護情報の透明化とどこでもMYカルテ~

日時:2012年10月20日(土)13時から
場所:TKP東京駅八重洲カンファレンスセンター(東京駅から5分)
主催 どこでもMYカルテ研究会
共催 医療構想・千葉 http://iryokoso-chiba.org/
   NPO法人医療福祉ネットワーク千葉 http://www.medicalwel.com/
   一般社団法人フューチャー・ラボ http://thefuturelab.jimdo.com/

第六回どこでもMYカルテ研究会

 2010年7月に始まったどこでもMyカルテ研究会は今回で第6回目を迎えます。この2年間で、どこでもMYカルテは現実化しました。すでに稼働している実践例が日本全国あちこちで出てきました。これからはいかに実効性を上げてゆくかという競争の時代に入ってゆくでしょう。またこれらのどこでもMYカルテ実践は、医療だけではなく介護福祉をも包含するものになりつつあり、これら全体の医療介護情報を透明化することによる獲得できる利益が期待されます。
 そのためには、この大きな医療データを形成し可視化するだけではなく、さらにこれを高度に活用するための数理モデルやテクノロジーが必要とされるでしょうし、それらは国レベルの骨太な将来構想に裏打ちされねばならないでしょう。プログラムの第I部はこのあたりに焦点があてられています。
 第II部は、各地域で素晴らしい成功を収めつつある実践事例です。地域中核病院、都会の病診連携、震災の地域など、どの例にも、すぐにでも採用可能な技術チップが散りばめられています。

 部屋の中にいるのがもったいないほどの風が心地よい秋晴れの土曜日でしたが、多くの皆様にお集まりいただき、充実した発表ディスカッションを行うことができました。プログラムに沿って簡単な速報を。

■プログラム(当日のプログラム【PDF】はこちらから)

総合司会  増山 茂(どこでもMYカルテ研究会・東京医科大学渡航者医療センター)
      溝尾 朗(東京厚生年金病院内科部長)

総合司会はこの二人で行いました。主として、I部は増山が、II部は溝尾が担当したことに なりました。

開会の挨拶 増山 茂(どこでもMYカルテ研究会・東京医科大学渡航者医療センター) 溝尾 朗(東京厚生年金病院内科部長)
増山 茂
(どこでもMYカルテ研究会・東京医科大学渡航者医療センター)
溝尾 朗
(東京厚生年金病院内科部長)

13:00
開会の挨拶 増山 茂(どこでもMYカルテ研究会・東京医科大学渡航者医療センター)

過去5回のどこでもMYカルテ研究会を振り返り、今回のテーマ「医療・介護情報の透明化とどこでもMYカルテ」の意味を解題しました。

I部
13:10
1.工藤卓哉(アクセンチュア株式会社)略歴
「NY市の情報システムからみた日本の医療ICT」

<概要>
 日本における医療情報システムと、アメリカのそれを比較すると、日本が参考にすべき有益な医療情報システム実行計画上のポイントがあるかと思います。
 例えば、日米の医療制度上の相違点から見ても、私的な保険会社と国民皆保険という決定的な政策制度の違いもあるでしょうし、厳格な主治医制度などの業務運用プロセス構造上の違いも思料される為、単に米国の医療情報システムのやり方を模倣すれば、日本でも同様にうまくいくかというと、必ずしもそういう訳でもないでしょう。
 もう一つ見えてくる重要な要因はリーダーシップの方向性にあります。米国では、ブッシュ大統領が2004年の一般教書演説において、医療情報IT化による構造改革で10年以内に全米のEHRを構築すると宣言しています。以来、この方向性はオバマ大統領にも引き継がれて現在に至ります。これによりニューヨークなどを中心に急速に病院経営管理システムに加え、予防的医療教育や診断の実施、診療コードの一元管理、ラボの診断情報連携、診療報酬・請求書情報連携や、処方箋連携に至るまで一気通貫管理し、且つ複数医療機関においても共有連携されているのが現状です。
 アメリカの医療現場においては、電子カルテの「見える化」、「標準化」だけを推進している訳ではなく、その先には具体的な打ち手として、予防的教育による慢性疾患などの発症率低減を見据えており、これが多大な社会保障費の削減や、究極的には国民の健康を守るというミッションに通じているのでしょう。
 ニューヨークで所属していたPrimary Care Information Projectにおいては、医療サービスが通常より低率でしか提供されていない貧困地区に重点ターゲットを絞り、こうした医療情報電子化の基盤をASPで地域医療機関に費用負担配賦していく工夫をしたことで、参画医療機関の参入障壁を劇的に下げることに成功し、市民全体の健康の底上げを実現しつつあります。
 この実現の裏側には「社会インフラとしての医療情報基盤構築の標準化」、「有益な医療関連構造化データ蓄積の為の設計思想」と「それら構造化データを眠らせない為の予測モデル構築」、「現場での情報活用方式の決定」という、重要な医療情報システムの設計フェーズの青図やアウトプットイメージを描きながら推進していく必要があるでしょう。また、悩ましい問題として、EHR(Electronic Health Record)を誰がどのように費用負担していくかという議論や、個人情報をどのように担保していくのか?というセキュリティ上の問題がありましょう。これら難題を医療機関だけで負担すると言うのは現実的ではない一方、自治体がどこまで支援するかも論理的に議論していく必要があります。
 本講演では、こうした日米の医療制度比較を梃子に、実行計画段階上の注意ポイントなどを指摘し、講演の中で適宜ケースを元に触れつつ、要諦を簡潔にお話しいたします。

2.有倉陽司(内閣官房 IT担当室 内閣参事官)略歴
「IT戦略における医療情報化の検討~「どこでもMY病院」に関する検討状況について~」

<概要>
 わが国の医療IT戦略は、基盤整備から利活用、構造改革という局面を経て、国民が自らの医療・健康情報を管理・活用すること等の実現を目指している。
 医療情報化に関するタスクフォースは、内閣官房IT戦略本部の中で日本の医療IT戦略の一画を担い、企画委員会の決定(平成22年8月9日)に基づき、「どこでもMY病院」構想の実現、シームレスな地域連携医療の実現、レセプト情報等の活用による医療の効率化、医療情報データベースの活用による医薬品等安全対策の推進について調査を実施し取り纏めを行ってきている。
 平成23(2011)年5月25日の報告書公表後、平成23(2011)年9月以降第11回・第12回・第13回の会議を経て、平成24(2012)年6月27日第8回企画委員会へ報告してきている。
 これら医療情報化タスクフォースの中で取りあげられてきた「どこでもMY病院」構想について、その内容を報告する。 (当日の講演資料【PDF】はこちらから)

工藤卓哉(アクセンチュア株式会社) 有倉陽司(内閣官房 IT担当室 内閣参事官)
工藤卓哉
(アクセンチュア株式会社)
有倉陽司
(内閣官房 IT担当室 内閣参事官)

II部
15:00
3.姫野 信吉 理事長(医療法人八女発心会 姫野病院/福岡)略歴
「お金をかけないでできる地域医療連携とどこでもMyカルテ」

<概要>
■ 究極の医療介護連携の方向性を示したい。我々のシステムはだれにでも無償に近い形でライセンス提供する。
■ 今の医療情報システムは院内から外に出れない恐竜。ジュラ紀にすらたどり着いていない紙情報もある。
■ 2000年以前と以後ではシステムの構造が全く異なる。2000年以後は、あちこちのサーバからデータを集めて1つの画面にまとめるマッシュアップが使われている。なぜ医療機関と介護施設が同じ画面で連携できないのか? 2000年以前は、HL7で送信するなどSEが事前に調整する必要があり、これに時間も費用もかかっていた。今はWSDLで提供側サーバが書式を明示している。HL7は暗黙的(implicit) だが、WSDLは明示的 (explicit)。
■ SS-MIXなどカルテ書式の標準化に何か意味があるのか? 脳神経外科と内科と精神科でカルテの書式が同じはずがない。医療施設と介護施設は書式も情報の種類も全く違うが、問題なく全ての情報を共有できている。1つの方式に押し込んでインタフェースを統一するのは無益有害。
■ SaaS/クラウド型の電子カルテの技術論は全て完成している。震災現場では、院内孤立型の電子カルテだと避難所にカルテを持ち出せなくてメモ転記していた。当病院は1400km離れた被災地と遠隔連携できた。
■ アメリカの医学会でVPNを使ったら「お前らバカか」と言われる。SSLで十分。VPNは20世紀の遺物。
■ どんな形式のカルテでも共有できる。孤立型の電子カルテはウェブサービスでラップwrapするか、どうしてもダメなら画面キャプチャ。
■ IDは全てメールアドレスを用いる。メールアドレスはグローバルIDで、最初から世界でユニーク。マイナンバー制度はナショナルID。某社のIDはリージョナルID。
■ 共有サーバ内には個人情報を一切保存しない。同じメールアドレスを登録すれば医療機関間で共有できる。異なるメールアドレスを登録していたら共有できない。例えば精神科など機微に触れる情報は、患者自身の意思で異なるメールアドレスを登録すればよい。メールアドレスなら患者にカルテや処方箋情報を送信することもできる。どこでもMY病院いっちょうあがり。コストゼロ。ウェブサービスやクラウドでコストが100分の1に下がってきた。ブラウザだけなのでクライアントの保守も不要。
■ 医師会などでは反対する医師が必ず出てくる。全員を最初から巻き込む必要はない。連携したい医療機関からどんどん始めてしまえばよい。
■ クラウド上のサーバー構築費は数十万円規模。
■ サーバ運用、ソフトウェア更新、教育の費用はかかる。ヘビーユーザには応分の負担もお願いする。
■ これまでは巨大な組織がないとできないと考えられていたことが、簡単にできるようになった。大企業による大掛かりなシステムは不要。ボランティア/NPOの方が速く動く。
■ (質疑) 履歴データは現在は整理して閲覧できる段階にはないが、後でいくらでも整理できるだろう。
(当日の講演資料【PDF】はこちらから)

4.原澤慶太郎(南相馬市立総合病院・亀田総合病院)略歴
「震災被災地での医療IT化とは」

<概要>
 昨年(2011年)12月に原発事故収束を謳うStep2が宣言され、20kmの警戒線が解除された今でも、答えのない問題を抱えながら、南相馬市には46,000人(H24.10現在)の人々が暮らしている。ホールボディカウンター(WBC)の導入により、正しい知識をもとに食品に留意することで内部被曝線量は増加しないことが示された。しかしながら放射能の影響を懸念する若い世帯だけが県外に避難したことから家族は離散し、作付けや漁を禁じられた多くの一次産業従事者は生きがいを失っている。こどもたちの帰還率は4割に満たないのが現実で、結果として多くの高齢世帯がこの街には取り残されることとなった。依然として1万人以上が仮設住宅、借上住宅に住む南相馬市においては、ひきこもりによるADL低下や孤独死の問題が、現実味を帯びて来ている。看護師不足も深刻で、病床不足から救急医療は崩壊しつつある。避難あるいは移住の賛否についても、低線量の放射線被曝という現実がもたらした、住民への裁量権の付与がコミュニティーを分断し、状況をより深刻なものにしている。原発事故によって急速に高齢化が進んだ南相馬市では、介護難民の問題が顕在化している。これは、まさに20年後の日本の姿であり、地域医療が抱えるさまざまな社会的問題に対してのsolutionの模索は、集学的なアプローチが必要と考える。南相馬市の現状ならびに実証実験候補地としての有用性、さらに3G血圧計を用いたICTの活用事例についてご報告する。 (当日の講演資料【PDF】はこちらから)

5.熊井 達(相澤病院情報システム部 部長)略歴
「松本市で医療・介護・福祉を結ぶICTシステム」

<概要>
 二〇〇〇年に構築したISP(インターネット サービス プロバイダー)の仕組みを用い、二〇〇二年から診療所向けに診療情報開示システムを構築し、二〇〇六年から二回の「地域診療情報連携推進事業」で、ASP(アプリケーション サービス プロバイダー)型電子カルテを追加構築し、相互参照型の仕組みとした。
 この連携システムで用いる電子カルテは、ペンタブレット入力型とキーボード入力型の、異なる形態の電子カルテシステムを用いたものとなっており、診療情報参照時は其々のカルテシステムを立ち上げて参照する方式となっている。
 その後二〇〇七年から二回の「地域診療情報連携推進事業」で、画像情報連携システムと介護情報連携システムを構築した。
 画像連携に関してはカルテと連動する為、参照の問題は発生しないが、カルテに於いては相澤病院の開示の仕組みを含め、複数のシステムを立ち上げて情報参照しないと、患者情報を掌握できない仕組みとなってしまった。
 そこで 今迄相澤病院で構築してきた経験と、一一〇施設を超える連携施設数を活かし、現日本大学(当時東北大学)医学部根東教授考案のタイムラインシステムをベースに、二〇一〇年から当院とNTT東日本とで、情報統合型の新たな診療情報連携システムの開発を行っている。
 今回は、開発の骨子となる診療情報連携の考え方と、タイムライン型診療情報連携の概略説明を行う。 (当日の講演資料【PDF】はこちらから)

6.宮川一郎(習志野台整形外科内科院長)略歴
「患者参加型医療と、それにつながる病診連携」

<概要>
■ 今年の医療費は40兆円を超えると言われ、支えきれない状況になってきている。患者自身が医療に参加することが今最も求められているのではないか? チーム医療に患者も入る患者参加型医療。患者の医療機関に対する不満の多くとして、治療そのものではなくコミュニケーションや設備等が挙げられている。習志野台整形外科内科では、iPadを患者に貸し出している。最近は高齢の患者もiPadに触れるようになってきた。
■ 自分のカルテを自分で作ってもらう「iPad問診票」、iPadがあれば無料で動画をダウンロードでき、オフラインでも再生できる「IC動画HD」を開発した。口や紙で説明するより動画の方が分かりやすい。現在も継続的に動画を製作・追加している。また、CGを3D化し、3D眼鏡で患者に診てもらうなどして、患者参加型医療実現の為、様々な方法を試みている。iOS対Bluetooth血圧計も開発している。出産前の妊婦のエコーから胎児の模型を製作する技術や、ホログラフ、ARにも可能性がある。
■ そもそも病診連携とは何か? 医療情報がつながっていること。この医療情報をどうすればよいのか? 費用、データマイニング、リテラシ、企業独占等の問題がある。これらの問題により、参加する医療機関や患者が少ない。1億円の病診連携でも、1億人が使えば安いが、1000人しか使わないなら高い。
■ PHRの価値を高めることが、病診連携を進めるきっかけになるのではないか?
■ 我が国の皆保険制度は素晴らしい制度であるが、どこでも安く質の高い医療を受けられるがために、患者自身が管理しようとする動機になりにくい。PHRに家族連携や医療情報等、自分が入力した以上の情報量があれば、使う動機になるのではないか?
■ 情報を様々なところに送るための仕組みがMIC (Medical Information Card)カード。折りたたみ式のUSBプラグが付いている。SS-MIX、DICOM、レセプトコンピュータからデータを取得する。将来的には、特定健診、主治医意見書等からもデータを取得したい。これらを医療機関、救急車、薬局等で活用する。患者自身が参照する情報と、医療機関が参照する情報は、少し異なっている。お薬情報も将来は一覧できるようにしたい。
■ ログイン画面は1つ。救急コード、患者コード、医療機関コードの3つのコードがあり、それぞれ閲覧範囲が異なる。医療機関でログインすると、次に医療者のIDやパスワードが必要になる。専用のソフトウェアを使うと、ログイン手続きを簡素化できる。
■ 患者自身が書き込めるので、PHRとして使える。カードの中にもデータを保持しているので、電波を使えない救急車内や、電波を使えない過疎地でも閲覧できる。
■ 自分の体重や血圧を管理するPHRサイトを構築している。このサイトにカード情報を取り込める。間もなく公開できる。
■ 見守りや予約、他のヘルスケアサービスとのデータ連携等、患者自身が使いたいと思うサービスと連携する。
■ (MICカードのビジネスモデルは?)患者に購入頂く。病診連携の最大の問題は高いこと。退院直後や複数疾病等、本当に必要としている患者に高くない価格で購入頂く。必要な人から始めて拡大する。
■ (フロアより、社会事業大学・今井)究極的に素晴らしいと思うが、医師の役 割はどうなっていくか? 患者に会い、説明する基本的な役割はあるだろうが、便利になりすぎたときの医師と患者のコミュニケーションはどうなるか?)医師としては、きちんと診断し、治療し、適切な薬を処方し、適切な時に適切な医療機関に紹介する。説明するのは自分の役割ではないと考える医師もいる。説明の負担を減らすこともMICの役割。医師が集まる会でも説明しているが、医師が患者の身体に手をあてることは本質的に必要なこと。ITで全てができるとは全く思っていない。
(当日の講演資料【PDF】はこちらから)

姫野 信吉 理事長(医療法人八女発心会 姫野病院/福岡) 原澤慶太郎(南相馬市立総合病院・亀田総合病院) 熊井 達(相澤病院情報システム部 部長) 宮川一郎(習志野台整形外科内科院長)
姫野 信吉 理事長
(医療法人八女発心会 姫野病院/福岡)
原澤慶太郎
(南相馬市立総合病院・亀田総合病院)
熊井 達
(相澤病院情報システム部 部長)
宮川一郎
(習志野台整形外科内科院長)

III部
17:10-17:50 総合討論会
司会:竜 崇正(医療構想千葉代表、NPO法人医療福祉ネットワーク千葉理事長)
   田口 空一郎(構想日本・河北総合病院)
(当日の討論の様子はこちらから)

竜 崇正(医療構想千葉代表、NPO法人医療福祉ネットワーク千葉理事長) 田口 空一郎(構想日本・河北総合病院)
竜 崇正
(医療構想千葉代表、NPO法人医療福祉ネットワーク千葉理事長)
田口 空一郎
(構想日本・河北総合病院)
竜 崇正(医療構想千葉代表、NPO法人医療福祉ネットワーク千葉理事長)

17:50
閉会の挨拶 竜 崇正
 どこでもMYカルテ、自分のデータを自分で持ち歩きたいという患者本人の意思が重要。全国民に義務付けるのか、必要としている人が自分の意思で使うのかによって異なるだろう。国の思惑より、現場の実践が進んでいる。新しい提案も各地で出てきている。多くの実践の中からしかるべきものが選ばれてゆく過程にある。さらに研究会を重ねてゆきたい。