2010年10月17日(日)午後、成田市市役所7階の大会議室において、シンポジウム「国際都市成田の将来と新しい医科大学構想」が開催された。
すでにいくつかのメディアでは内容の一部が報道されているが、実行委員会からも、ここに簡単な速報をまとめておこう。
今回のシンポジウムは、成田市と医療構想千葉の共同開催によるものであった。
ただのお勉強会ではない。もうすでに日本のいくつかの大学や地域で進行している新しい医育養成機関設立計画について、成田市が、公開の場で、もし成田地域にそれが現実化するとすればこの新しい医育養成機関に望む基本的考え方、それへの成田市のポジション(経済的・社会的・政治的な)を声明する場であったといえる。
シンポジウムは、増山茂(医療構想千葉)の司会により進められた。
2010年3月13日に行われた、医療構想千葉の緊急シンポジウム「どうしたら医師を増員できるか考える」
http://www.iryokoso-chiba.org/shinpo_kinkyu_sh.html
2010年4月16日、文部科学省の鈴木寛副大臣に手渡した「千葉・埼玉・茨城に、
新しい医師養成機関をつくろう」という提言書
http://www.iryokoso-chiba.org/katsudou_seisaku_3.html
に言及しながら、本日のシンポジウムの性格を説明された。
冒頭、小泉一成成田市長は「アジアの玄関口としての成田」という強さを維持・
確立・発展させ、このブランド力を生かして成田を空港と寺社だけの町ではな
く、経済・学術・文化・医療の最先端をも呼び込める魅力的な都市にしたいと述
べた。新医科大学・医学部設立についても積極的に考えるつもりだ、と明確に発言した。
基調講演の土屋了介氏(癌研有明病院顧問・前国立がんセンター中央病院長)は、「成田ブランドと医療クラスタ構想、成田もつ大きな可能性」と題して講演し、斬新な成田医療クラスタ構想を発表した。
この構想は、米国のメイヨークリニックやテキサス医療センターを念頭に置いた
各種各レベルの医療関係機関の高度集積構想である。実践医療・臨床研究・医療者教育を包摂し、急性期医療施設・リハビリテーション施設・在宅支援診療所・
在宅ケア・在宅ホスピスシステムが24時間連携する。医科大学や医学部などもこのクラスタの不可欠な構成要素であって、研究と医療関係者育成の役割を担う
こととなる。
成田にはさらに、アジアのハブという国際性があって、世界でもユニークといえ
る医療クラスタになるだろう。この実現のためには、成田クラスタそのものが日本の医療常識を越えた地域”医療特区”となって「成田を21世紀の出島にする」
必要がある。
すばらしい講演であった。
宇都宮氏の司会による成田からの発言セッションでは、
関根賢次氏(成田市副市長)は、成田市が成田赤十字病院を中心とした地域医療
に大きく配慮してきた歴史と現状を紹介し、さらに地域医療を立て直すためにも
積極的役割を果たすつもりがあること、「新しい医科大学を引き受けなさいと言われればそのための覚悟はある」と述べた。
諸岡孝昭氏(成田商工会議所会頭)は、空港や成田山という観光資源に恵まれている成田に先進的な医療機関群を含む新医科大学ができれば、現在広く話題を呼
んでいるメディカルツーリズムの拠点ともなりうる、と積極的な支持を表明した。
吉岡正之氏(成田青年会議所理事長)は、「海援隊」ならぬ「空援隊」を組織して、全市を盛り上げて応援するだろうと成田青年会議所の活動を説明した。
谷田川衆議院議員は、国会で成田空港問題につき質問してきたこと、新医科大学問題につき成田市と担当官庁との仲介を行ってきたことを紹介し、将来ぜひともこれを実現させたいと述べた。
竜崇正(NPO法人医療福祉ネットワーク千葉理事長・前千葉県がんセンター長)
は、「なぜ成田に医科大学か」と題する講演の中で、成田の敵は羽田ではない、
韓国のInchonである、と羽田と成田が手を結んで立ち向かう必要を強調した後、
成田に必要な大学像を以下のように述べた。
1.治療からケアまで一貫する医学の確立。
2.患者の心を大事にする、「小老病死」に向き合う、国際的にも通用する、また地域にも貢献できる臨床レベルの高い医療人を育成する。
3.千葉、埼玉、茨城などにある高度専門病院、地域中核病院、一般診療所を大学医療施設とする、IHN型大学病院の形成。
4.英語での教育を中心に。
5.医療特区として、臨床試験を積極的に推進し、世界標準医療を創設する。
1,2、はこれからさらに深刻化する高齢社会を見据え、かつ広い国際性をもった長寿社会を展望する新しい医学の提唱である。
3.のIHN型複数病院群よるに大学病院の形成、については注釈が必要となろう。IHN: Integrated Health care Network. ここでは、千葉、埼玉、茨城などにある高度専門病院や、地域中核病院、一般診療所をVPNで繋ぎ、これらすべて
を成田医科大学病院および医療施設とする構想である。計3000-5000ベッドの規模に達すると考えられ、ここであれば世界に通用する臨床治験も可能となろう。
また、このIHN型大学病院群の形成は、日本最悪の医療過疎圏でありゆえに崩壊しつつあるこの地域の医療を再生させるダイナミックなモデルとなりうる。またここでこそ、優れた臨床医を育てることができるし、地域医療を護り育てる大学となるであろう。
上昌広氏(東京大学医科学研究所教授)が強調したのは、「NARITA」の知名度で
ある。「CHIBA」など世界的にみると誰も知らない。「TOYOTA」と「TOKYO」と
「NARITA」が日本の3大ブランドである。これを生かせば、世界中の大学がやってくるであろう。歴史を見れば教育こそがもっとも効果的な投資であることがわかる。また、新しい医科大学創設問題は、この1年間が本当の勝負だ。この期間を密度高く駆け抜ける指導者がいるかどうかが問われている、と述べた。
2010/10/24
シンポジウム「国際都市成田の将来と新しい医科大学構想」実行委員会